パクリタキセル静脈内投与(一週間に一回投与するものに限る。)及び
カルボプラチン腹腔内投与(三週間に一回投与するものに限る。)の併用療法
担当診療科:産科婦人科




はじめに
 
 卵巣がん(卵管癌、原発性腹膜がんを含む)は早期診断の方法が未だ確立されていない上、早期には症状が出にくいため、6割以上の患者さんは診断を受けた時点ですでにお腹の中にがんが広がった状態になっています。そのため卵巣がんは比較的なおりにくいがんの一つとされています。
 手術で腫瘍を切除した後に引き続いて抗がん剤の投与を受けるのが、進行卵巣がんの標準的な(現時点で最良と考えられている)治療です。抗がん剤の投与は、①『パクリタキセルおよびカルボプラチンという抗がん剤を3週間毎に点滴投与し、それを6回程度くりかえす方法』もしくは、②『比較的少なめの量のパクリタキセルを1週間毎に点滴投与し、同時にカルボプラチンを3週間毎に点滴投与して、それを6回程度くりかえす方法』が一般的です。しかし、このような治療を行っても半数以上の患者さんが再発してしまうのが現状であり、より有効な治療法の開発が急務です。
 卵巣がんは、しばしば腹腔内(おなかの中)全体に広がります。そこで手術のあとに抗がん剤を腹腔内に投与する方法が数十年前に考えだされました。この方法は静脈内に点滴で投与する場合と比べてはるかに高い濃度の抗がん剤を直接に腫瘍にふりかけることになるため、高い効果が期待されます。また、全身に抗がん剤がまわってから作用する静脈内投与と比べ、副作用が軽くなることが期待されます。この方法については、日本国内ですでにいくつかの小規模な臨床試験が行われており、少ない副作用で良好な結果が報告されていますが、現時点においては静脈内投与と腹腔内投与のどちらが有益かはわかっていません。
 そこで卵巣がんに対するより有効で副作用の少ない化学療法の確立のため、以下の2つの方法を比べることにしました。(これを臨床試験といいます。)この臨床試験は弘前大学大学院医学研究科産科婦人科学講座を含めた日本全国の施設で約685人を対象に行う予定です。すでに約300人の方がこの臨床試験による治療をうけておられます。
 



  治療法I       治療法 II  
 
 比較的少量のパクリタキセルの毎週点滴静脈内投与とカルボプラチンの3週間ごと点滴静脈内投与の組み合わせ
     
 比較的少量のパクリタキセルの毎週点滴静脈内投与とカルボプラチンの3週間ごと腹腔内投与の組み合わせ
 



 
 今回使用する薬は、いずれもすでに市販され、実際の日常の卵巣癌治療に一般的に使用されているものです。しかしカルボプラチンという薬の投与方法の違いにより、治療成績に差がでるのかを確かめるわけです。なおカルボプラチンの腹腔内投与(現在承認されているのは静脈内投与方法のみ)は、適用外の使用方法になります。
 用法が承認されていない医療技術については、原則として健康保険が使えないため、同時期に行う診療についても保険診療との併用(混合診療)は認められていません。つまり試験期間中の診療費を全て私費(患者さんの自己負担)または全て研究費(研究者が準備する研究資金)で支払わなければならない現状があります。しかし、これらの医療技術のうち、厚生労働省へあらかじめ申請して一定の条件のもとに行われるものについては「先進医療」として認められ、適応外の薬剤のみ患者さんの自己負担(または無償提供)となり、その他の医療費については保険診療との併用(混合診療)が可能になります。(これを先進医療といいます。)今回の場合、治療法IIが先進医療になります。
 




臨床試験の進め方と先進医療に該当する患者さんの決定方法
 
 試験に参加する際は、手術中(または手術後)にカルボプラチンを点滴静脈内投与するか、あるいは腹腔内投与するかを決めなければなりません。あなたがどちらの治療法になるかは、あなた自身や担当医師が決めるのでなく、先入観が入らないように第三者機関(北里大学臨床研究機構 臨床試験コーディネーティング部:iPocc Trial コーディネーティングセンター)でコンピュータを使用して中立的な方法(ランダム化という方法)により決定されます。2つの治療法を比較するために、それぞれの治療法に組み入れる患者さんの状態(病期や残った腫瘍の大きさなど)ができるだけ均等になるように割り振られます。患者さん自身や担当医師が治療法を選べないことに対して疑問を感じるかもしれませんが、この方法はどの治療法が最も効果や利益があるかを調べるためには最もよい手法と考えられており、世界中の臨床試験で使われている方法です。
 




腹腔内リザーバーポートとは?
 
 抗がん剤であるカルボプラチンを腹腔内投与する場合が先進医療に該当することになります。またカルボプラチンを腹腔内に投与するためには、「腹腔リザーバーポート」が必要です。腹腔リザーバーポートは、お腹の中に抗がん剤を投与するための器具でお腹の皮膚の下に埋め込みます(下図を参照してください)。この図では右上腹部に器具を埋め込んでいますが、実際には患者さんの状態によって最適と思われる場所に埋め込みます。腹腔リザーバーポートを埋め込んだ部位に若干の違和感を感じる患者さんもいらっしゃいますが、通常は痛みが出たり入浴などの日常生活に支障をきたしたりすることはありません。埋め込んだリザーバーがうまく機能しなかったり、感染をおこす原因になったりした場合や、予定していた試験治療がすべて終わった場合には器具を取り除きます。または、治療が終了した後にそのままにしておいても特に生活に支障はありませんので、ご希望がなければ必ずしも取り除く必要はありません。
 


  *腹腔リザーバーポートがお腹の中にある様子
   
 
 皮膚の下に入れた器具の一部(丸い部分)は、何度も注射針を刺すことができるようになっています。ここから、お腹の中にカルボプラチンを入れます。
 

 
 カルボプラチンはチューブを伝ってお腹の中全体に広がります。注入されたカルボプラチンは24時間くらいで自然にからだに吸収されてお腹の中から無くなります。
 




図:腹腔内リザーバーポート留置




試験治療の方法
 
カルボプラチンを腹腔内投与する場合
 
 
 まず、1日目にパクリタキセル 80mg/m2 (体格によって投与量が若干増減します)を1時間かけて静脈内に点滴で投与し、同時に生理食塩水1000~1500mlを腹腔内リザーバーポート(手術時にお腹の中に入れた器具)から腹腔内に入れます。パクリタキセルの静脈内点滴が終了してからカルボプラチンを腹腔内に投与します。カルボプラチンの投与量はAUC 6(AUCとは投与された薬がからだに吸収された量を示す単位のひとつです)です。次に8日目と15日目にパクリタキセル 80mg/m2を1時間かけて静脈内に点滴で投与します。3週間を1サイクルとして、この治療法を6~8サイクル繰り返します。
 



 
 副作用の出方によってはその後の投与量を減量したり、投与間隔を延長したりする場合があります。強い副作用が出たり、投与間隔が大きく開いた場合にはこの治療法を中止することがあります。また、副作用として吐き気やアレルギー症状が生じることがありますので、パクリタキセルを投与する前に吐き気止めやステロイドを使用して予防します。
 また、抗がん剤投与前の手術で腫瘍が取りきれなかった場合には、3~5サイクルの抗がん剤治療後にもう一度手術を行う場合があります。その際には手術後さらに1~3サイクルの抗がん剤治療を行います。したがって、合計6~8サイクルの治療を受けていただくことになります。
 




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