急性心筋梗塞症に対する新しい治療法としての血栓吸引療法

 急性心筋梗塞症は冠動脈内プラーク破裂とこれに続く冠動脈の血栓性閉塞によるものがほとんどですが、稀に心臓内で形成された血栓に続発する塞栓によることもあります。急性心筋梗塞症に対する治療として経皮的冠動脈形成術(いわゆる風船療法)の有効性が確立されていますが、症例によっては冠動脈形成術中に粥腫や血栓が閉塞部位よりも末梢へ移動したり、あるいは閉塞していたところはきれいに開通しているのに血液が心筋へきちんと流れなくなる現象(slow flowやno-reflowと呼ばれています)が見られることがあります。こういう現象は臨床経過を悪化させることが知られています。弘前大学第二内科では、そうした問題を回避すべく、積極的に血栓吸引療法や末梢血管保護のための装具を使用し、冠動脈造影所見の改善だけではなく、最も重要な冠微小循環の改善に努めています。

 今までの急性心筋梗塞症に対する冠動脈形成術は、冠動脈の閉塞部位を風船で広げ、多くの場合引き続いてステントとよばれる金属製のチューブを植え込み、血管を内側から支えるというものでした。もちろんこうした方法のみで良好な経過をたどる場合が多いのですが、なかには風船やステントが広がる時に生じる微細な血栓や粥腫が原因で、前述したような現象が起こることがあります。末梢保護デバイスとは、血栓や粥腫が血管の末梢へ流れないようにあらかじめ病変部よりも先の方で別の風船を広げ、血液の流れをせき止めておいてから病変部を風船でふくらませたり、ステントを留置するものです。その結果生じた微細な血栓や粥腫は別の風船でせき止められたところに集まります。それらを吸引カテーテルで吸って体外に除去します。十分に吸入ところでせき止め用の風船をしぼませます。

 これに対して血栓吸引療法とは、せき止める風船を使用せず、吸引カテーテルを病変まで深く挿入して血管を閉塞している血栓を直接吸引し、体外に除去しようというものです。末梢保護デバイスに比べて、簡便で迅速に使用できるというメリットに加え、最近は以前のものよりも通過性や吸引力が増強されたものが市販されています。現在はこの血栓吸引療法を積極的に行い、ほぼすべての症例で良好な結果が得られています。弘前大学第二内科は、いろいろな器具の利点、欠点を見極めつつ患者様にとって最も望まれる医療技術を提供したいと考えています。