H131210 薬理学講義 "高脂血症"に対する質問への回答

Q1.高コレステロール血症になるとどのようなことが起こるか?

.二年の基礎生物学実習でも取り上げたが、血管内側は血管内皮細胞が覆い、血液から血管壁内に侵入するのをコントロールし、また血流調節をこまめに行っている。

高コレステロール血症になると、

1.内皮細胞をLDLLow Density lipoprotein低比重リポ蛋白)が通りやすくなり、コレステロールが蓄積して動脈硬化を進行させる。

2.粘性が高くなった血液(これにも食生活等の生活習慣が関係する)が流れて血管壁が傷害を受けた場合、血小板膜にコレステロール成分が多いと、血液を固める血小板の働きが高まり、大きな血栓ができやすくなる。これは心筋梗塞の原因ともなる。

3.酸化されたLDLが増加すると、内皮細胞で作られる血管弛緩物質、一酸化窒素(NO:これも二年の実習で取り上げた)の合成が減り、血管の強い収縮が起こって血流が遮断されやすくなる。これによって心臓では冠動脈攣縮(れんしゅく)性狭心症の原因や、運動時の狭心症発作の引き金になる。

Q2.中性脂肪が高くなるとどうなるか?

.血液中の中性脂肪が高くなると

1.HDLHigh Density Lipoprotein)が減り、LDLの粒子が小さくなって、血管壁にコレステロールがたまりやすい環境になる。

2.凝固因子が増加して血栓ができやすくなり、また出来た血栓を溶かすプラスミンという物質の合成を抑えて溶けにくくする。このため、心筋梗塞や脳梗塞が起こりやすくなり、より重症になる可能性がある。

3.善玉コレステロールが低くなるだけでなく、高血圧、肥満、糖尿病を合併することがある。動脈硬化の進行は速くなり、虚血性心臓病や脳梗塞が起こりやすくなる。

Q3.食事療法とは具体的にどういうものか?

高コレステロール血症の初期では、体重が1kg増えることによって総コレステロール値が2040mgdl上昇し、逆に体重が減れば、総コレステロール値もLDLコレステロールも下がる。
そこで体重管理が大事。

1.エネルギーと糖質の制限で体重を管理する。
1日に必要なエネルギー量は体重1kgにつき2535Kcalが目安。
標準体重1kgあたり30Kcalとすれば1日1,900Kcalの食事となる。

2.脂肪の制限
興味ある疫学的データ

日本人が脂肪からとるエネルギーは、1970年代まで全摂取エネルギーの20%未満であったが、最近は平均で26.6%となり、2030歳代では32%にも達している。
一方、同じ日本人でもハワイやカリフォルニアに移住した人では35%を超えており、心筋梗塞の死亡率がハワイで日本の2倍、カリフォルニアで3倍となっている。

従って、摂取する脂肪をコントロールすることも大切。
摂るなら、多価不飽和脂肪酸の多く含まれた魚、植物のものを摂るように心がける。

3.食物線維

線維の多い食品は脂肪の吸収を抑え、コレステロールが排せつされやすくなる。

4.酸化を防ぐ食品
LDL
が動脈壁に侵入する際、酸化LDLになって動脈硬化部分に取り込まれる。
その酸化を防ぐ抗酸化食品(ビタミンE、C、ベータカロチンやフラボノイドなどを含む、胚芽油、植物油、穀物、果物、緑黄色野菜、大豆製品、茶、紅茶、コーヒー、ココア、赤ワイン)などを努めて摂るようにする。

Q4.運動療法とは具体的にどういうものか?

呼吸をしながら継続できる運動を有酸素運動とよぶ。体内に酸素を取り込む能力が高まり、脂質の分解が効率よく進むようになる。有酸素運動には、ウオーキング(歩行)、ジョギング、水泳などがある。運動によって末梢の血液循環ならびに代謝が改善されて中性脂肪値が下がる。一方、HDL値が上がってくる。

Q5.LDLHDLの役割とは?

LDLは肝臓で合成されたLDLを必要な臓器にまで運ぶ役割を担う。一方、HDLは余剰のコレステロールを末梢の臓器から回収し、肝臓へ戻す役割を担う。

もう少し詳しく説明すると、(下図参照)

1.小腸で吸収された食物由来の中性脂肪やコレステロールは最も比重の低いリポ蛋白カイロミクロンを形成し血中に入る。中性脂肪は組織のlipoprotein lipaseによって脂肪酸に分解される。残滓粒子(chylomicron remnat)は肝臓で捕捉、処理される。

2.肝臓から分泌されるVLDLは肝臓で合成された中性脂肪やコレステロールを多く含む比重の非常に低いリポ蛋白である。

3.エネルギー代謝に必要な中性脂肪を供給することで比重は上昇し、LDLとなる。

4.LDLは細胞膜上のLDL受容体と結合することで取り込まれ、コレステロールを提供する。

5. 同じく肝臓で合成されたHDLは中性脂肪やコレステロール含量が元々少ないため、比重が高い。そして余剰のコレステロールが存在する臓器に到達するとコレステロールを取り込み、比重が低下すると肝臓に回帰してゆく。肝臓にはLDL受容体以外にHDL受容体が存在する
動脈壁などの肝外組織においては、過剰のコレステロールはエステル型で蓄積されるが、HDLが存在すると遊離コレステロールとして細胞外へ引き抜かれ、HDL粒子に取り込まれ、肝臓のHDL受容体より回収される(コレステロール逆輸送系と呼ばれる)。HDL受容体は、SR-BI (scavenger receptor class B type I )である。

 

テキスト ボックス:

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6.余剰のコレステロールはマクロファージによって貪食される。マクロファージが泡沫細胞となって血管内皮にコレステロールを蓄積させて脂肪斑を形成する。その後は血管組織の繊維化、そこへのカルシウム沈着と続き動脈硬化が進行する。(下図参照)

       (講義のプリントが不鮮明だったので、動脈硬化進展の図をここに再度掲載します。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Q6.抗高脂血症薬について処方、副作用等についてさらに詳しく知りたい。

.次表を参照のこと

 

分類

一般名

用法

効果

作用機序

主な副作用

主にコレステロールを低下

強力

HMG-CoA
還元酵素阻害薬

プラバスタチン

10 mg
1-2
回/日

コレステロール(25-40%)と中性脂肪(5-15%)減少させる

肝臓でのコレステロール生合成反応の律速酵素を阻害

脱力感、筋肉の痛みを主訴とする横紋筋融解症

陰イオン
交換樹脂

コレスチラミン

8-12g
2-3
回/日

LDLコレステロールを主として低下させる

腸管の胆汁酸と結合して肝臓への胆汁酸回収を抑制することでコレステロール分解を促進させる。

便秘、腹部膨満感、食欲不振、ビタミンA,D,E,K吸収抑制

プロブコール

プロブコール

500mg

2回/日

コレステロール(LDLだけでなくHDLも)低下

コレステロールから胆汁酸への異化排泄作用が促進され、コレステロールが消費される。

胃腸障害、肝臓酵素上昇、心臓QTの延長

中等度

植物ステロール

ソイステロール

1200mg

3回/日

脂質改善作用は弱く、軽症に対し、他薬と併用する。

消化管でのコレステロールの吸収を抑制する。

胃部不快感などの消化器症状

主にトリグリセライドを低下

中等度

クロフィブラート

クロフィブラート

750-1500 mg

2-3回/日

コレステロールを低下させる(15-20%

トリグリセライドも低下させる(5-15%)

肝臓でのコレステロールとTGの合成を抑制。

 

胆石症、腹痛、下痢、悪心、CPKの上昇

ニコチン酸系

ニコチン酸

300-600 mg

3回/日

コレステロールとともにトリグリセライドを低下させる。

脂肪の分解

を抑制し、遊離脂肪酸を放出させない。

皮膚の紅張、