「 亀の歩み 」弘前大学 病理生命科学講座 大学院 清野 浩子

 私は現在、病理生命科学講座に席をおかせていただいておりますが、以前は弘前大学放射線科学講座に所属させていただいており、そちらで専門医まで取らせていただきました。私には6歳の娘と3歳の息子がおり、最近ようやく少し手がかからなくなってきました。しかし、子どもが小さい頃は病気など色々と大変なこともありました。仕事にも育児にも中途半端で周りに迷惑ばかりかけている自分に嫌気がさし、何度か本気で仕事を辞めようかと考えることもありました。しかし、私が今日まで医師という職業を辞めずにこれたのは、ひとえに放射線科学講座でお世話になりました上司・スタッフの皆様の強いご忍耐と温かいご指導のおかげであり、とても感謝しております。

 話は変わりますが、実は私はまだ博士号を取得していません。出産・育児をしながら専門医と博士号を同時取得されている努力家の女医さんは沢山おります。しかし、医師3年目に一人目を出産した当時の私は、自分の育児環境・キャパシティー的に専門医と博士号の同時取得は困難に思え、博士号取得はいずれ子育てが一段落してからと考えていました。そうしてようやく下の子供の手が以前ほどかからなくなってきたなあと感じていた折、鬼島教授の御厚意により病理生命科学講座で勉強・博士号を取得する為の機会を得ることができたのです。

 病理での毎日はとても新鮮で楽しいです。私の所属する病理生命科学講座では臨床、研究、学生教育とどれも非常に熱心であり、鬼島教授の元、スタッフの皆さんがとても頑張っており、刺激になります。外科や内科から勉強にこられている先生方も多く、色々な科の先生と机を並べて勉強できる点も素晴らしいと思います。また、自分たちが切り出しをした外科切除材料が、実際に標本となって提出され、それを診断していくというプロセスも、非常に勉強になり興味深いものです。私などは空き時間に、病理所見と画像所見などを照らし合わせては、「これが画像でこう見えていたのか〜」と感銘を覚えることがしばしばあります。病理学は勉強をしなければならない領域が非常に広く、初学者の私にとっては実際とても大変ですが、とても奥の深い学問であることがまた大きな魅力だと思います。なによりも子供をもつ女医にとっては、仕事の大半が日中の業務時間内に終了し、規則正しい生活を送れるということも、大きな魅力です。また、(子供をもつ、もたない、キャリアの有無に関わらず)研究や学会活動を頑張りたい人にはその機会、指導環境が与えられるという点も素晴らしいと思います。

 子持ちの女医さんのおそらく大半は、育児のかたわら、同期(あるいは後輩)の医師とのキャリア・経験との差がどんどん開いていくことに悩み、自分は果して医師として続けていっていいのだろうか(続けていけるのであろうか)と思い悩む時期があると思います。また、親御さんやパートナー(夫)の全面的な協力を仰げる人、そうでない人、子供が丈夫な人、そうでない人、と育児環境も人それぞれです。卒後何年目で子供をもつかも女医にとっては、キャリア面・生物学的な面の双方において大きな問題であり、学位・専門医をとってからの出産の方が望ましいと考える方もおります。私自身は、親に日常的に協力を仰げる状況ではなかったので、第3者の協力を得て育児・仕事をどうにか続けてきました。周りの同世代の先生達が、臨床・学会活動・研究などで立派に成長されていく姿を目の当たりにして、情けない気持ちや焦りを何度感じたことでしょう。時々、「専門医・学位を全て取り終わってから、出産・育児を選択すれば少し楽だったかな」と思うこともありました。しかし、子供は成長するものです。ママの鍵を隠しては仕事にいかせまいとしていた赤ちゃんだった娘(彼女なりの抵抗だったのでしょう)も、お姉さんになり週末は積極的にお手伝いをし、労わりの言葉をかけてくれるまでになりました。乳児期に大病を患い、その後も喘息発作で親を何度もハラハラとさせた身体の弱かった息子もぐっと丈夫になりました。今は早めに子供を産んで良かったなぁと日々感じています。そして、振り返ってみて改めて思いますが、職場の方、両親、保育園の先生、子供を見てくださった方など、どんなに沢山の人々に支えていただき、今日の自分があるかということです。私は、スタートが遅くなってしまいましたが、「今からでも勉強するのに遅くはない」と自分を励まし、人と比べるのではなく「自分は自分のペースで勉強を続けよう」と最近は思っています。そして、こんな私にも居場所(職場)が与えられていることにとても感謝しています。

 ところで、病理に来てみて分かったことは、青森県の病理医は非常に少なく不足しているということです。裏を返せば、きちんと勉強し専門医をとり修練さえすれば、働き場所は幾らでもあると言うことです。青森県の病理診断を担う、私の直属の上司である鬼島教授も病理部の黒瀬教授も、女医の育児・キャリア作りに非常に御理解のある方であり、御指導・御協力を惜しまない先生方です。(勉強は大変だと思いますが、)子持ち女医にとっては明るく楽しい病理での生活が待っていると思います。