Fujii Lab.

弘前大学大学院医学研究科/医学部医学科 ゲノム生化学講座

Japanese / English

Research

当研究室では、新しい方法論の開発を通じて生物学研究に新しい地平を切り開くことを目指している。個々の技術詳細は以下の通りである。新規技術開発も鋭意進めている。

insertional chromatin immunoprecipitation (iChIP)engineered DNA-binding molecule-mediated chromatin immunoprecipitation (enChIP)

1. 遺伝子座特異的クロマチン免疫沈降法(遺伝子座特異的ChIP法)

エピジェネティック制御や転写などのゲノムDNA機能発現の分子機構の解析は、従来、主に遺伝学的解析や試験管内での生化学的解析によって進められてきた。しかし、こうした手法では、分子機構の解明が困難な場合が多く、解明ができたとしても十年単位の長い時間が必要だった。こうした状況を変えるため、我々が開発した技術が遺伝子座特異的ChIP法である。遺伝子座特異的ChIP法は、試験管内ではなく、細胞の核内で解析対象のゲノム領域に結合している分子を網羅的かつバイアスがかからない形で検索することができる。遺伝子座特異的ChIP法により、核内で、解析対象ゲノム領域に蛋白質やRNA、他のゲノム領域が結合したまま生化学的に単離することができる。こうして単離した解析対象ゲノム領域に結合している分子を、蛋白質であれば質量分析解析、RNAや他のゲノム領域は次世代シークエンス解析によって同定することができる。遺伝子座特異的ChIP法は、insertional chromatin immunoprecipitation (iChIP) 法engineered DNA-binding molecule-mediated chromatin immunoprecipitation (enChIP) 法の二つから構成される。

iChIP法は、(i) 外来性DNA結合分子(細菌のDNA結合蛋白であるLexA蛋白質等)の結合配列を、解析対象ゲノム領域近傍に挿入した細胞を樹立、(ii) タグを付けた外来性DNA結合分子(LexA DNA結合ドメイン (LexA DB) 等)の上記細胞への発現、(iii) 必要があれば、ホルムアルデヒド等の架橋剤でクロスリンク後、超音波処理または制限酵素処理等によりゲノムDNAを断片化、(iv) 上記タグを認識する抗体による免疫沈降により、LexA DBが結合したDNA-蛋白複合体を単離、(v) クロスリンクをはずし、複合体中の蛋白・DNA・RNAを同定、という手順による(図1)。

enChIP法は、(i) zinc-finger蛋白質、TAL蛋白質、酵素活性欠損Cas9とガイドRNA複合体からなるclustered regularly interspaced short palindromic repeats (CRISPR) 系等、標的ゲノム配列に結合する人工DNA結合分子にタグを付けた融合分子を標的細胞に発現、(iii) 必要があれば、ホルムアルデヒド等の架橋剤でクロスリンク後、超音波処理または制限酵素処理等によりゲノムDNAを断片化、(iv) 上記タグを認識する抗体による免疫沈降により、上記融合分子が結合したDNA-蛋白複合体を単離、(v) クロスリンクをはずし、複合体中の蛋白・DNA・RNAを同定、という手順による(図2)。enChIP法は、iChIP法と異なり、外来性DNA結合分子の認識配列を標的ゲノム領域に挿入する必要が無く、特定ゲノム領域の単離が飛躍的に簡便化された。

また、細胞内に外来性DNA結合分子を発現させることなく、遺伝子組換え技術を利用して作製した外来性DNA結合分子を使って試験管内で単離対象ゲノム領域をタグ付けするin vitro iChIP法・in vitro enChIP法も開発した。これにより、臨床検体由来細胞や病原微生物等、外来性DNA結合分子を発現せることが困難な細胞に対しても遺伝子座特異的ChIP法を応用することができるようになった。

遺伝子座特異的ChIP法は、(I) 解析対象ゲノム領域に結合する分子が、DNA、RNA、蛋白質等、分子種に関わらず同定できる、(II) 低コピー数のゲノム領域に結合する分子の同定が可能である、といった既存の方法には無い優れた特質を持っている。


oligoribonucleotide interference-PCR (ORNi-PCR)

2. ORNi-PCR法及びその関連技術

癌などの難治性疾患の発症にはDNA塩基配列の変異が関与することが知られている。そこで、塩基配列変異が原因となる疾患の有無を調べるために、DNA増幅法であるPCR法を利用した様々な変異検出法が利用されてきた。しかし、従来法は、検出感度やコスト、確定診断の点で欠点が指摘されていた。そこで、これら欠点を補う方法として我々が開発した技術がoligoribonucleotide interference-PCR(ORNi-PCR)法である。ORNi-PCR法は、PCR法で増幅されるDNA領域内に存在する配列に相補的な17~29塩基程度のORN(短いRNA)を利用してPCR反応を阻害することで、ORNがハイブリダイズするDNA領域の増幅のみを特異的に阻害できる方法である(図3)。つまり、ORNi-PCR法を利用することで、ORNがハイブリダイズするDNA領域に変異を有するDNAのみを、特異的に増幅することができる。ORNi-PCR法は、増幅を抑制したいDNA配列および変異箇所が分かっていれば、必ずしも変異配列の情報は必要ない。これまでに、ORNi-PCR法が1塩基の変異を高精度・高感度に区別でき、ゲノム編集細胞の検出やDNAメチル化解析、細菌叢解析等にも応用できることを報告している。