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会長挨拶Greetings

 ヒトを含めた全ての生命体は、レドックス反応(酸化還元反応)によりエネルギーを産生しています。これは生命の起源にレドックス反応があったことを示しています。また、進化が酸素産生性の光合成を発明してからは太陽エネルギーをエネルギー源として作られる炭水化物と酸素分子が多彩な生命体を生み出すレドックス反応の基質となり、より大きなエネルギーを産生するようになりました。また、福井謙一先生のフロンティア軌道理論にあるように、分子と分子の反応は電子の共有や受け渡しが反応機構の基本にあります。このような事実から、私たち生物はレドックス反応により生存していると言えるでしょう。

 多様なレドックス活性を持つ分子の重要性は酸素分子1つを例にとってみても驚くべきものがあります。酸素分子はミトコンドリアでの酸化的リン酸化に必須なばかりではなく、活性酸素種に変化して自然免疫機構、細胞内シグナル伝達などにも働く一方でその過剰産生は老化、虚血再灌流障害を始めとする種々の疾患に重要であることが分かっています。酸素分子ほどの重要性はないにしてもこのようにレドックス活性を持つ分子は現在でも次々と見つかっています。また私たちの体の中にはこのようなレドックス活性を持つ分子の総体としての酸化と還元のバランスを一定状態に維持するための機構が備わっています。このレドックスのホメオスタシスは、体温やpHと同様に重要であり、それが酸化に傾くと酸化ストレス、還元に傾くと還元ストレスとなり細胞機能の異常を来たします。

 このように生命の根本にあるレドックス反応でありながら、レドックス科学の知見が疾患の治療や予防、健康の増進に寄与した実績は思いの他に少ないのではないでしょうか。こうした現状を少しでも改善し、より信頼性のある製品開発につなげ、これをもって社会に貢献していくためには、産官学の研究者が領域横断的に会し、意見交換、技術情報交換、共同研究開発などを行うことが不可欠です。また、このような活動の中から日本独自のレドックスサイエンスの萌芽とその世界貢献が可能になるものと思います。

 本委員会の前身となる日本学術振興会の第170委員会(通称レドックス第170委員会)は、学会とは一線を画し、産官学におけるレドックス制御に関連した健康科学(創薬、機能性食品、化粧品など)に関する「技術情報交換」および「実用化」への支援などを主目的として平成12年1月に設立されました(委員長:二木鋭雄博士(東京大学名誉教授)。その後、平成18年には谷口直之博士(大阪大学名誉教授)が委員長に、そして平成22年4月より内田浩二博士(東京大学教授)が委員長に就任し、令和2年4月までの長きに渡り第170委員会を発展させて来られました。

 この度レドックス第170委員会は20年の長きに渡りご指導いただいた日本学術振興会から独立し、社団法人として活動を継承することとなりました。本委員会は前委員会の活動の趣旨を尊重し、レドックスサイエンスを応用したさらなる社会の向上・健康増進を目指します。

レドックスR&D戦略委員会 会長 伊東 健  

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