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研究内容

転写因子Nrf2の転写活性化メカニズムの解析

NF-E2-related factor 2(Nrf2)は、塩基性ロイシンジッパー構造をもつ転写調節因子です。Nrf2はDNAやタンパク質などの生体高分子を酸化して攻撃する親電子性物質、活性酸素および活性窒素種などの様々な反応性分子種により活性化されて、標的遺伝子の転写を増強します。
Nrf2は、親電子性物質を直接解毒するグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、ヘムオキシゲナーゼ(HO-1)やキノンオキシドレダクターゼ(NQO1)をはじめ、解毒により枯渇したグルタチオンを合成するグルタミルシステイン合成酵素、細胞内の主要な還元力であるNADPHを合成するグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼなど、酸化ストレス防御遺伝子群の発現を統一的に制御しています(下図)。

Nrf2遺伝子を破壊したマウスの解析から、Nrf2が酸化ストレス防御機構の中心的役割をにない、それが破綻することにより易発ガン性、外来異物/酸化ストレスに対する感受性の亢進、炎症・免疫系の異常、鉄代謝の異常、神経変性疾患に対する感受性の亢進などが引き起こされることが明らかになってきました。
それでは、Nrf2はどのようにして標的遺伝子の発現を増強するのでしょうか?
刺激がない時は、Nrf2は細胞質でアクチン結合性因子Keap1と相互作用していて、その転写活性能は抑制されています。Keap1はユビキチン連結酵素であるCullin3とNrf2との橋渡しをするタンパク質として働き、その結果Nrf2はユビキチン化されてプロテアソームで分解されます。Keap1タンパク質には酸化剤と反応しやすいシステイン残基があり、そこが親電子性物質により酸化的修飾をうけると、Nrf2のユビキチン化・分解が減弱して、分解を逃れたNrf2が核内に移行・蓄積し、小Maf因子とヘテロ二量体を形成します。この複合体が標的遺伝子の発現制御領域に存在する親電子物質応答配列/抗酸化物質応答配列(EpRE/ARE)に結合することにより、抗酸化タンパク質遺伝子群の発現が増強します。

しかしながら、転写が活性化するためにはさらに他の因子が関与します。私たちは、普遍的なコアクチベーターであるCBPがNrf2と直接相互作用し、転写を活性化することを見いだしました。さらに、クロマチンリモデリング因子複合体のコアサブユニットBRG1がNrf2と相互作用し、特異的にHO-1遺伝子発現を制御することを明らかにしました(Zhang et al, Mol Cell Biol, 2006, 26:7942-7952.)。

私たちはさらに詳細なNrf2活性化メカニズムを明らかにするため、Nrf2と相互作用する分子を同定し、親電子性物質応答における役割を解析しています。これまでに、細胞周期に関わる因子やヘテロクロマチンと関連する因子を同定して、それらのNrf2転写活性化への影響について解析を進めています。
また、Nrf2タンパク質の転写活性化に関わるアミノ酸領域(ドメイン)について、相互作用する分子との関係を調べています。