弘前大学大学院
医学研究科
生体構造医科学講座
神経解剖・細胞組織学講座

〒036-8562
弘前市在府町5番地 0172-39-5005 (講座受付)

教授室

解剖学教室からのご挨拶

下田 浩  弘前大学医学部神経解剖・細胞組織学講座と生体構造医科学講座は各々昭和23年に解剖学第一講座(照井精任初代教授)、同第二講座(工藤喬三初代教授)として開講され、平成24年4月1日より私が両講座を担当しています。約70年の歴史をもつ伝統ある弘前大学に着任させていただきましたことは身に余る光栄と存じますとともにその重責を感じています。私にとっては全く初めての地での教室づくりでしたが、周囲の方々やスタッフの暖かい支えで前に進むことが出来ています。
 生体構造医科学講座と神経解剖・細胞組織学講座が教育を担当しています解剖学は全ての医学の基盤となるものであり、医学を志すものが必ず学習しなければならない学問です。特に、その中で行われる人体解剖学実習は医師を志す医学生にのみ許された教育であり、その学習が崇高なる志を持たれた人々の御心によってのみ成り立つことを充分に理解することで、生命に対峙する医師としての人格が形成されます。医学・解剖学の一番の教育者は生命の煌めきを本学に委ねていただいた方々であり、その声が最大限に学習者に届くように尽力することが私たちの使命と考えています。組織学については、組織学実習標本を一新する事業に現在取り組んでおり、教科書を刷新できるレベルを目指しています。
 研究面では、両講座の垣根を取り合払い、「リンパ管とは何か?」の答えを求めてリンパ管の系統・個体発生を中心としたin vivoとヒト生細胞チップを用いたin vitroの二つのアプローチによる研究を行っています。小型魚類によるin vivoアプローチは脈管形成の動態解析だけでなく、がんを初めとした様々な疾患モデルの構築と解析を可能としています。また、三次元生体組織構築(大阪大学大学院工学研究科明石研究室との共同研究)によるin vitroアプローチは結合組織内で立体的に広がる血管・リンパ管網の形態形成やがんの進展・転移の解析に有用であるとともに、血管・リンパ管網をもつ生体移植組織の開発を可能とします。現在、教室ではこの技術を用いてリンパ管形成やがん転移の分子形態解析を行うとともに血管・リンパ管網をもつ組織(皮膚、消化管・尿管などの外壁)や集合リンパ管・血管の作製に取り組んでいます。血管・リンパ管網をもつ人工腹膜については既に特許申請を行い、平成26年度より開始されたNEDO(新エネルギー産業機構)のプロジェクト(平成27年4月よりAMED(日本医療研究開発機構)に移管)による「立体造形による血管付きバイオハートの研究開発」にも参加しています。今後も日本に深い伝統をもつ「リンパ管の分子形態学」を看板とした研究室を目指していきたいと存じます。
 私自身は愚直に進むしか能がない若輩者ですが、教室員一丸となってこの伝統ある教室を出来る限り発展させていきたいと願っています。これからも皆様のご指導とご鞭撻の程をどうぞよろしく御願いいたします。


扉絵のはなし

当教室の研究室の基盤が整ってきたことを契機に今回ホームページを刷新しました。扉の写真はもう10年以上前に小腸の筋層を走査電子顕微鏡で観察した懐かしいものですが、この姿を初めて眼下に収めたことがリンパ管の研究を続けるきっかけの一つになったように思います。
 小腸の筋層は腸の壁を輪状に取り巻く筋とそれに直交し腸を縦方向に走る筋の2層構造をしています。その2層の間には「筋層間(アウエルバッハの)神経叢」と呼ばれる神経の網目が張り巡らされています。これは交感神経、副交感神経に次ぐ第3の自律神経系で、独立した消化管の脳とも言われています。小腸のその部分を実体顕微鏡の下で露出し、神経の電線が良く見えるようにコリンエステラーゼ(赤)といわれる酵素と、さらに霊長類のリンパ管内皮がもつ5‘ヌクレオチダーゼ(緑)という酵素を同時に染色し、走査電子顕微鏡で観察しました。表面に白く細い線が走る黒い筋束の上で太い神経の束(赤)がつくる格子状の枠の中を細い神経線維(赤)が網目状に拡がり、それらをすり抜けるように同じ枠内に太くていびつな形をしたリンパ管(緑)が走っています。リンパ管の働きの一つは余剰な組織液を回収・排導することですので、腸の大事な脳が汚れて水浸しにならないように環境を整えているのかもしれません。リンパ管は古くは身体の下水道によく例えられますが、そうしますとこの写真は張り巡らされた電線・情報網に(血管という水道とともに)下水道が配備され、衛生環境がよく保持された都市の地図を見るようです。

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