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病理への箴言

Dr. Asao Hirano
Montefiore Medical Center
Bronx, New York

 Montefioreがニューヨークだとは知っていた。ニューヨーク医科大学のDr. Melamedのもとに留学を決めたとき、留学中に平野先生のもとにも勉強に行きたいと漠然とは思っていた。
 Manhattanの北15マイル、White Plainsのアパートに居を決めた一週間後、Staplesという近くの文具屋に電球を買いに行った。なんと、レジに平野先生が居られたのだ。もうびっくりしてしまった。初対面の挨拶もしどろもどろ、Montefioreへの訪問の快諾を得たのである。
 ニューヨーク医科大学からは車で20分のBronxにMontefiore Medical Centerはあった。以来足繁く通わせて頂いた。先生に学んだのは礼節と優しさをはじめとする人間性である。さらにMontefioreの廊下ですれ違った小柄の男性。はたしてDr. Kossであった。
 平野先生の顕微鏡の下には正常脳の標本が置かれており、常にそれと対比されていた。コントロールとされていた正常脳は平野先生の長年のご親友の脳標本であった。何も神経学的に異常がなかったことが明らかだからである。
生田 房弘 先生
「カラーアトラス神経病理」平野朝雄編著初版序より

生田先生(右)と伊井先生。お二人ともMontefioreのご同門である。2016年弘前で開催された神経病理学会にて。

 生物学的法則の総括像に常に接しているのが病理である。我々は未だ病的秩序のごくごく一部しか知らない。殆どの病理組織は動かずにじっと我々にその意義を投げかけている。残されている課題の如何に某大であることか。現在病理学者の中にも組織軽視、分子偏重の発言があるが、病理の本質が見えていないと言わざるを得まい。
 Montefiore Medical CenterのDr. Zimmermanのもとに学ばれた平野朝雄先生はNew Yorkに残られ、生田先生は新潟に帰られた。Montefioreの平野先生、そして新潟脳研の生田先生の薫陶を受けた神経病理医、病理医、脳神経外科医、神経内科医は多数に及び、今の日本の神経病理が単に病理に留まらず広く脳神経外科医や神経内科医の叡智が集結する場であるのは、平野先生、生田先生、お二人の卓越した学問のみならず、その人格によるところ大なのである。
小林 秀雄 「美を求める心」
 小林秀雄は以前から愛読していたが、この言葉を知ったのは病理医になってからである。見た瞬間、驚いた。なんと的確に病理医の盲点を指摘していることか。
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